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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)4447号 判決 1983年2月25日

主文

一  被告は、原告に対し、金八九六万八〇三九円およびこれに対する昭和五五年八月八日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の建物につきなされた大阪法務局西出張所昭和五五年三月四日受付第二五八号根抵当権設定登記および同出張所同日受付第二五九号停止条件付賃借権設定仮登記の各否認登記手続をせよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一ないし三項同旨

2  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  青木徹三(以下、青木という。)は、関東部品工業有限会社の名称で自動車部品の販売業を営んでいたが、昭和五五年四月一七日、大阪地方裁判所で破産宣告を受け、原告がその破産管財人に選任された。

2  青木は、被告に対し、昭和五四年一二月二九日に別紙約束手形目録1、2記載の約束手形二通(以下、本件手形1、2という。)を、昭和五五年一月二六日に同目録3ないし7記載の約束手形五通(以下、本件手形3ないし7という。)を、同月二九日に同目録8、9記載の約束手形二通(以下、本件手形8、9という。)を、同年二月二六日に同目録10ないし12記載の約束手形三通(以下、本件手形10ないし12という。)を、いずれも右各手形金の取立を依頼して裏書交付した。

3  原告は、被告に対し、昭和五五年七月一七日到達の内容証明郵便で、本件手形1ないし12について取立の終了したものについては取立金を、取立未了のものについては手形を同月二二日までに原告に返還するよう催告した。

4  被告は、昭和五五年八月七日までに本件手形金合計八九六万八〇三九円を取立てた。

5  青木は、昭和五五年三月四日、被告との間で、別紙物件目録記載の建物(以下、本件建物という。)について、極度額二〇〇〇万円の根抵当権設定契約および停止条件付賃借権設定契約を締結し、大阪法務局西出張所同日受付第二五八号をもつて根抵当権設定登記および同出張所同日受付第二五九号をもつて停止条件付賃借権設定仮登記(以下、右各登記を本件各登記という。)をそれぞれ経由した。

6  青木は、自動車部品の販売業を営んでいたが、昭和五五年二月二五日に業界では大手の株式会社ヤマベ(以下、ヤマベという。)の系列に属する株式会社コーリン(以下、コーリンという。)および株式会社共商(以下、共商という。)が、同年三月四日にヤマベが、同月五日に同一系列の北海エース有限会社(以下、北海エースという。)が相次いで倒産したため、右四社に対する同年二月二九日現在の売掛金合計二億二四九二万円が回収不能となつた。右債権額は青木の全取引債権額の約九〇パーセントを占めるもので、青木も同年三月四日当時支払不能の状態に陥り、店舗を閉鎖し、同月二二日、債権者の淡路縫工所こと高島茂太から破産の申立を受けた。

青木のなした右各担保契約は、破産者の義務に属しない行為であり、かつ青木が他の債権者を害することを知つてなした行為であるから、原告は、破産法第七二条第一号、第四号により、右契約について否認権を行使する。

7  よつて、原告は、被告に対し、手形取立金合計金八九六万八〇三九円およびこれに対する昭和五五年八月八日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払ならびに本件建物につきなされた本件各登記の各否認登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし5の事実は認める。同6の事実中コーリン、共商、ヤマベ、北海エースが倒産したことは認めるが、その余の事実は否認する。

三  抗弁

1  被告は、昭和五二年一月二七日、青木との間で、次のとおりの特約を含む信用金庫取引約定を締結し、右約定に基き青木に対し、手形貸付、手形割引、証書貸付等の信用金庫取引を行つてきた。

(一) 青木は、債権保全のため必要と認められるときは、請求によつて直ちに被告の承認する担保もしくは増担保を差入れ、又は保証人をたて、もしくはこれを追加する。

(二) 青木が被告に対する債務を支払わなかつたときは、被告が占有している手形は被告において取立て、又は処分することができ、その取得金から諸費用を差引いた残額を法定の順序にかかわらず債務の弁済に充当できる。

2  被告は、青木から割引いたコーリン振出の手形が不渡りになつたことを昭和五五年二月二九日に知り、債権保全の必要が生じたため、前記1(一)の特約に基いて青木に対し、担保の差入を要求し、同年三月一日、青木との間で、被告の青木に対する債権の担保として本件手形1ないし12を譲受ける旨の譲渡担保契約を締結し、さらに本件建物についての各担保権設定契約を締結した。

3  前記1(二)の特約は、青木所有の手形が被告の占有に移つたときに、青木の債務不履行を停止条件とする右手形の譲渡担保契約もしくは質入契約が成立する旨の合意であるところ、被告は、青木から取立委任を受け、本件手形1ないし12の裏書交付を受けてこれを占有していたものであるから、それぞれ手形の交付を受けた日に停止条件付担保契約が成立している。ところで、青木は、昭和五五年三月二二日、破産申立を受けたことによつて、特約により、青木の全債務について期限の利益を失い、被告が青木から割引いた全手形について青木には手形買戻義務が生じたから、右停止条件は成就したもので、被告は、本件手形1ないし12について破産法上別除権を有する。

4  被告は、本件手形1ないし12の譲渡担保権者として右各手形を取立て、被告の青木に対する債権に充当し、原告に対し、昭和五六年二月七日付内容証明郵便で右充当の通知をした。

5  被告は、右各担保契約当時、コーリン振出の約束手形が不渡りとなつたが、共商、ヤマベが危機状況にあることを知らず、被告が取引を継続すれば青木は十分もちこたえられると考えて担保差入をさせたもので、破産債権者を害することを知らなかつた。

6  仮に被告が手形取立金の返還債務を負うものとしても、右債務は次のとおり相殺によつて消滅した。

被告は、昭和五七年七月二八日の本件口頭弁論期日において、原告に対し、次の約束手形三通(以下、本件不渡手形という。)を呈示したうえ、右約束手形買戻請求権を自働債権とし、八九六万八〇三九円の本件手形取立金返還請求権を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(一) 三九一万七〇三二円

但し、金額四一七万七二二五円、満期昭和五五年三月一〇日、支払地、振出地ともに広島市、支払場所扶桑相互銀行広島支店、振出人コーリン、振出日昭和五四年一〇月二〇日、受取人兼第一裏書人青木、割引日同月三〇日の約束手形の買戻請求権残額

(二) 四一七万七二二五円

但し、金額四一七万七二二五円、振出日昭和五四年一一月二六日、その他の手形要件は(一)と同じ、割引日同月二八日の約束手形買戻請求権

(三) 八七万三七八二円

但し、金額四二〇万六二八五円、満期昭和五五年五月一〇日、振出日同年一月一九日、その他の手形要件は(一)と同じ、割引日同月二九日の約束手形買戻請求権の内金

四  抗弁に対する認否

抗弁1ないし3の事実は否認する。同4の事実中被告が原告に対し充当の通知をしたことは認める。同5の事実は否認する。同6の事実中被告が原告に対し主張の約束手形三通を呈示したことは認めるが、その余の主張は争う。

五  再抗弁

1  仮に被告と青木間で本件手形1ないし12につき譲渡担保契約がなされたとしても、右契約は一般債権者を欺くため被告が青木と通謀してなした虚偽表示によるもので無効である。

2  仮に右主張が認められないとしても、被告と青木間の本件手形1ないし12の譲渡担保契約は昭和五五年三月三日に締結されたものである。青木は、同年二月二九日、コーリンの倒産を知り、同年三月一日、被告からコーリン振出の割引手形約二五〇〇万円の買戻を請求されたので、被告に対し、ヤマベ振出の同年五月二八日満期の二六二九万九八二五円の手形割引を懇請したが、断られ、同年三月一日に被告から青木が取立を依頼して被告に預託中の全手形につき譲渡担保契約を締結することと唯一の不動産である本件建物に極度額二〇〇〇万円の根抵当権を設定すること並びに青木、妻、子供二人の名義の合計三九〇〇万円の定期預金証書の引渡を要求された。青木は、右各担保契約をすればあとには売掛債権約六〇〇万円と在庫品一〇〇万円位しか残らず、他の債権者(届出債権一億九一五六万九〇八三円)への配当は微々たるものとなり著しく不公平となることを知りながら、債務者の義務に属しない右手形譲渡担保契約をしたものである。原告は、破産法第七二条第一号、第四号により右譲渡担保契約を否認する。

3  破産宣告により手形の取立権限を授与する準委任契約は民法第六五三条により消滅し、手形は当然に破産財団に属する財産となり、その管理、換価の権限は原告に専属する。被告は、本件手形1ないし4、6、8ないし12を破産宣告後に取立てたものであり、また、本件手形5、7を破産宣告申立後にそのことを知りながら取立てたものであるから、右取立金返還請求権を受働債権とする相殺は許されない。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁1ないし3の事実は否認する。

第三  証拠(省略)

別紙

物件目録

大阪市福島区吉野四丁目九五番地の一所在

家屋番号 九五番一の三

木造スレート葺二階建居宅兼店舗

床面積 一階 六九・九六平方メートル

二階 六二・六七平方メートル

約束手形目録

<省略>

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